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ねことパンの日々

ねことパンの日々

貧乏物語 河上肇著

貧乏物語 河上肇著 大正6年 弘文堂書房(第二版)

貧乏物語1貧乏物語2

貧乏物語3   貧乏物語4
↑コレにやられてしまいました....。

タイトルと妙な装丁からして、文字通りビンボな人の物語、つまり小説かと思っていたのですが、中身は大阪朝日新聞に掲載された、経済についての論説です。大まじめな本なのです。ぜんぜんそうは見えませんが...。このヘナチョコな装丁は「舎弟」によるものだそうです。大正浪漫主義の影響といえるのか?それともただの天然??でも私はこれに負けてしまったのです。数年前にお正月の銀座松屋古書市で購入。500円ナリ。

アダム・スミスの『国富論』やマルクスの『資本論』など西欧の経済学や政治学の成果を引用し、さらには昆虫の生態、サルからヒトへの進化論なで持ち出して、世のビンボをなくすためには人々が如何に生きねばならぬかを説いているのであります。
この本の中程に、ビンボ根絶の3方策が書いてあります。後にこれらについては少々補足がありますが、誤解を恐れずご紹介しておきましょう。

その1 世の金持ち(富者)が自ら進んで一切の奢侈贅沢を廃止すること
その2 何らかの方法で貧富の甚だしい差を矯正し、著しい所得格差をなくすこと
その3 各種の生産事業を個人(私人)に任せるのではなく、軍事や教育のように国家が担当すること

ううむ、一見すればみごとに社会主義、共産主義につながりそうなお話ですなぁ。事実著者の河上肇は1932(昭和7)年に日本共産党に入党、翌年には治安維持法違反の嫌疑で逮捕されています。
しかし、教条主義的な共産主義思想ばかりにこの本が貫かれているのではありません。彼は、先の3点の方策を述べたあと、特に3番目の問題について、次のように述べています。

「少し事を根本的に考へて見るならば、いくら組織や制度を変へたから善いと言つた所が、それだけの仕事を担当する豪傑が出て来なければ駄目だからである」

ヽ(__ __ヽ)コケッ!! や、やっぱ個人に頼るんかい...。
ここで彼は、社会組織の変革よりも、個人レヴェルでの意識改革が重要だと説いているわけで、教育の大切さにも言及しているわけですが、それにしても豪傑て...。明治以来の男尊女卑がしっかりと根付いております。
また、河上はイギリスの政治家ロイド ジョージを敬愛しており、彼が蔵相時代にはじめて導入した人民予算(今でいう社会福祉予算)にすこぶる共感をおぼえています。ロイド ジョージは決して社会主義者ではなく、むしろマッチョで、一匹狼的な孤高の政治家であったようです。このあたり、著者のこのころの政治的関心がリベラルなものであったことを窺わせますね。

当時の西欧に於ける貧富格差は現在の比ではなく、過酷な労働を余儀なくされつつも日々の生活に困窮する人々は非常に多かったようです。留学によってそれを目の当たりにした著者は、なぜ思想的・社会制度的先進国にこうした現状が生まれているのかを見つめ直したわけです。決して的を得ているとはいえない論の展開ですが、真摯にビンボ撲滅のために新聞紙上で個人レヴェルでの意識改革を主張していたその意義は大いに認められるべきでしょう。

ちなみに、『第二貧乏物語』もあるようです。こちらは戦時色が濃くなってきた昭和5年の刊行で、検閲による伏せ字が非常に多いようです。装丁はいかにもプロレタリアなロゴが使われ、なんだか味気ないです。これも「舎弟」にやってもらえばよかったのに...。
なんとこの本、岩波文庫になってるんですね。超有名な本だったんだ...。失礼しました。<(_ _)>




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